☆.。.:*・ 未成熟星雲  .:*・°☆

僕は逃げたかったんだ

この世界から
母から
僕から

連れていってほしかった、兄に

兄が僕に最後に行った言葉は
別れの言葉ではなく、懺悔の言葉
僕は残るしかなかったんだ

星の綺麗な夜には僕は外へでる
音の無い空間が僕を包む
僕を取り囲む全てのおっくうな事から解放される

何もない川辺を歩いていく
今日は満月、そして満点の星空
天の川が地上の川に映り
もう一つの天の川が僕の目の前に広がっている
死者の魂を運ぶと言われる天の川は
いったいどこへ繋がっているのだろう?

微かな声が聞こえる
(僕はいつの間にか遠くまできてしまったらしい…)
見覚えのない草原が目の前に広がった
 
よく見ると
真ん中に机と椅子がおいてある?
2人の影が楽しそうに揺らいでいる
そこで1人の少年と
すらりと背の高い青年がお茶を飲んでいた

こんな時間にこんな場所で?

僕は不思議に思いながらも近づいてみる
向かいの少年が僕に気がつき、もう1人の青年に何か話し掛ける
青年はまるでわかっていたかのように僕を誘う

「こんばんわ」
青年は横においてあるピクニックバスケットから
僕の分のティーセットを出してくれた
「今日はとても月が美しいので、ここでお茶を飲んでいたのですよ」
彼は月光社の方です、と紹介してくれた少年はまるで
星をまとっているかのように小さな光の粒に囲まれていた。
配達人です、と
差し出された手には月の光

「彼は星雲の子供を探しに来たのだそうです。
彼に会えるのはとても珍しいのですよ」
少年は無表情で僕をじっと見つめている
「僕は、ココウ」
僕はその遠慮のない視線に
恥ずかしくなって目をそらしてしまった

まるで心を見透かしてしまうかのような彼の瞳には
星が映り
つねに光がスパアクしているようだった

もちろん青年と話す彼もやはり無表情で
人形ではないかと疑う程、人間味がしない
(向かいの青年と比べて、なんて対照的なんだろう)
2人の関係を不思議に思いながらも
僕は絶えまない話に笑ったりしながら
楽しい時間を過ごした

青年の方はよく見ると
もっと年上のようでもあったし
もっと若くも見えた
ただ僕を見つける視線が
とても優しかったのを憶えている

月が僕達を照らす
ティーポットの中には星砂糖
楽しいお茶会が終わる気配がした

ティーセットの横には小さなフラスコのような小壜に水晶の欠片。
「彼にもらったんですよ」
中のは小さな光が外へでようと飛び交っているように見える
「これは小さな星雲の欠片、月の力が強い時に目覚め、
ほおっておくとこの星をのみ込んでしまう事もある
僕は遠くから欠片が生まれた数を数え、その欠片の周期を計算し
それを探して処分するのも仕事なんだ」
少年が僕に説明する
こんな綺麗な月の夜にはこれらを見つける力があるとか
青年はその小壜をおもしろそうに見つめる
「処分するなんてもったいないですよね、
この欠片はとても綺麗なので私がもらうことにしたのです」
僕がその中身をよく見ようと顔を近付けると

中の欠片が
僕に
向かってチリリと光る






次の瞬間僕は自分の部屋のベットに寝ていた
太陽の光が僕を包む
夢?

今日は日曜日
僕は明日使う色鉛筆を買いに行く
あいにくどこも
スタアロケット社の色鉛筆(新色)が売り切れ
しかたなくそのまま雑貨店へ向かう
ウィンドウから見える影は店主
僕は足を踏み入れる
「いらっしゃいココウ君」
聞き慣れた声に僕はほっとする。
その手には小壜
そして見た事のあるピクニッックバスケットには
星雲の欠片がこぼれるように入っていた

「昨日はあの後大変だったんですよ、星が逃げてしまって」

僕は思い出す
ああそうか、そういえば
昨日の青年は店主だった
お店にいない店主はどこかあいまいで、不確か
『店主』ではない彼を僕は求めていないのかもしれない

「いつのまにそんなに沢山貰ったの?」
「君が帰ったあと、実は私も星雲を探しに行きましてね」
ついでに彼の事務所までいって在庫をもらって来た
のですよ、と困ったように笑う
「ずるいよ、僕も行きたかったのに」

わかってる、僕はいけない 

そして僕は思い出す

逃げ出したい現実
それができない自分

それは閉じ込めなければ
まるで宇星雲の子供のように僕という星を飲み込んでしまう感情

ここにくれば
僕が僕でなくてもいい
僕が僕であればいい

やさしい声が僕を包む
小さな小さな世界が僕を癒す
ここは僕の中、僕の外

店主の持つ
星雲の子供は
日の光を浴びて星々の残像をまくらに微睡んでいる
僕は願う
どうかまた目を覚まさないで、、、





Item:06
name:未成熟星雲
月の力が強い時に目覚め、
ほおっておくと星をのみ込んでしまう事もある。