☆.。.:*・ 月下煌青トカゲ .:*・°☆


僕は街まで続く薄暗い道を歩いていた。
日が暮れるのが早いこの時期は、
街から少し離れた僕の家からは街燈がなく、
ただ目の前に見える街の光を見ながら歩いて行く。
カンテラを持ったこともあるけど、街で大きな買い物をした時には
ただの荷物になることに気がついてやめたんだ。

毎日通る道だから、目をつむったって街まで行ける気がする。
 僕がそんなことを考えながら、
目の前の街の明かりと夜空の境で、 消え入りそうになっている星を目を凝らして数えていると、
下の方で星とは違う、何かがキラキラと輝いたのが見えた。

星が落ちてる?

気がつけばまわりは日が暮れて真っ暗になっていて、
足下には月の優しい光に照らされた僕の影がそこにあった。
僕は一応、静かに近付いて、草陰からのぞいてみた。

石?

硝子?

それとも誰かの落とした指輪?

違った、

それは、月の光を反射して、キラキラと光る青いトカゲ。
つるりとした皮膚のこまやかな光はまるで紫金石のようだった。
こんな時期に、それも今まで見たこともない綺麗なトカゲ、
捕まえようと手を伸ばした僕に気が付き、
それはサっと闇に溶けた。

あぁそういえば、以前小道具店の店主に
「青トカゲ連合会」の話を聞いたことがあったっけ。

僕は、明日の朝食用の、お母さんの大好きなパンを手に入れた後、
いつもの店に急いだ。

「それは惜しいことをしましたねぇ」
店主は透明なグラスをふいている手をとめ、話を聞いてくれた。

もしあの青いトカゲが、青トカゲ連合の探すトカゲであったら、
沢山の報酬がもらえるらしかった。
まだ、その青トカゲ連合が解散する前だったら、の話。

「でしょう? 捕まえたかったんだけど暗くて見失っちゃったんだ。
まだ青トカゲ連合があったら僕連絡するのになぁ」
僕は店の中を何を探すわけでもなくゆっくりと見ていると 身なりのよい女性が入って来た。
ペンが並んでいるところにいくと、
一つ選んで握ってみてはもどし
また別のペンを握ってはもどし…
好みの形を探しているらしかった。

もし僕にお薦めを尋ねたら、僕は真っ先に、右から二番目のペンを お薦めするのにな、
持ち手は硝子のような人工素材で軽く滑らかな丸みがあり 持ちやすく、
中心部分にインクが入る硝子がはいっているんだ。
色は色々あるんだけど、僕はやっぱり青。
マーブルになっているのを見つけると、嬉しくなる。

あれは絶対月下煌青トカゲだよ、

僕はそう言いながらカウンターのいつもの席についた。
 
その時 「今、月下煌青トカゲとおっしゃった?」

手には僕のお薦めのペン。色はブルー。

その女性はなんと、「青トカゲ連合会」創設者の孫ということだった。

「月下煌青トカゲは、私の眼の治療に必要なものだったのよ」

偶然入ったお店で久しぶりに聞いた名前が懐かしかったようで、
僕達に いろいろな話をしてくれた。

彼女の眼は特殊な病気で、月の下で光を失い、
満月が近づくと 眼が青く光り、

その眼には青い色見えなくなるというものだった。
そこで、おじいさんは、孫の病気を治療するために 幻の「月下煌青トカゲ」を探していたという。
 その頃の彼女は「月下煌青トカゲ」という生き物も知らず
おじいさんが自分の病気に対して同情からの作り話だと疑って、
時々おこなわれる連合会の会合も 自分の名前を利用した単なるお酒を飲む口実だと思い、
嫌っていたらしい。

「だってね、おじいさんは、私にとっても厳しくて大嫌いだったの。
今、思うと、あまりに私が何もかも病気のせいにして 悲観して
いろんな事に諦めていた私の事を、 本当に心配していたんだと思うわ。
家のみんなは私に同情して、何でも言う通りにしてくれたの。
でもおじいさんは違ったわ。

だから私はおじいさんに嫌われていると思ってたの。
そのころの私は、本当嫌な子で…

それが愛だって気付けなかったの。
みんなに嫌われていたのは、 恐ろしい眼の事だけではなかったんだと今はわかるわ。
おじいさんが亡くなる直前に偶然月下煌青トカゲが見つかって 私は、
この眼を手に入れたのよ。」

彼女は綺麗な薄いブルーの瞳を輝かせて おじいさんに最後にごめんなさいと
ありがとうと言えたことが嬉しかったと言っていた。

おじいさんが亡くなった後、 彼女のために作った「青トカゲ連合会」は解散したけど
その時の資料は、今はいろいろな病気の治療にも役立っているという話だった。
そして彼女は今、自分のような特殊な病気に苦しんでいる人を助ける 仕事をしているのだと言っていた。
そして、別れ際、青トカゲを見たという僕に
「青トカゲ連合会」の会員が持っていたルーペを記念にくれた。
これは青トカゲを見つけた時そのルーペを通してそのトカゲを見ると青い眼が、
まるで月のように、黄色く輝いてみえるんだとか。

僕は帰り道に、青トカゲを見つけた場所でもう一度 探してみたけど、
暗くてよくわからなかった。 また、昼間になったら探そうと思いながら、
お母さんの待つ家に帰った。




僕はお母さんを嫌ったりなんかしない

ごめんなさいは言わない

ありがとうも言わない




ただ

ただ



愛してるって言いたい










Item:17
name:青トカゲ商会レンズ
月下煌青トカゲを見つける特殊なレンズ