☆.。.:*・ 夜空星調査棒 .:*・°☆


この頃は日が暮れるのが早くなってきて町の家窓に
光が灯るのも早い。

僕は雑貨店のドアを開けるといつものお気に入りの
ノートが置いてある場所に向かった。
カウンターには老夫婦が1組すわり、
店主と何か話をしている。
僕はノートの代金を店主に渡そうとカウンターに
向かうと、老夫婦の前に大きめの試験管が置いてあるのが目についた。

僕が見ているのに気がつくと
恰幅のよい男性が「君もどうかね?」と
僕にその試験管を差し出して来た。
僕が戸惑いながら店主と見ると
「ココウ君も気に入ると思いますよ」
僕は手に取り、中をのぞくと
「これは"夜空星調査棒"といってね
夜の空を研究するために使うものなんだよ」
こう、くるくるっと巻き取るんだ
男性が動作を加えて説明してくれる。
昔はもっと空はグレーがかっていてね
今はキレイなったものなんだよ、と言いながら
中には細い棒に夜空が巻きついているようだった
そして光の破片たち

「この破片はね、偶然に流れ星がはいってしまった証拠ななんですって」
店主が面白そうに綺麗な指で破片を指す
「資料としては失敗作なんだが
巻き取って保管するのが成功品より大変でね、
流れ星が入ったと思ったらすぐに
この容器に入れないと、星が飛び散って怪我をしてしまうんだ
若い頃よく同僚と騒ぎながら作業してね、
あの時は本当におもしろかった」
「へぇ綺麗、こういうものが
研究所に沢山あるの?」
「そう、でもこの失敗作は
ある一定期間保管されたら処分される不要品でね。
勿体ないだろう?
だから
いつも処分をするときに
いつかもらってやろうと思っていたのさ」
「うふふ、最初で最後になりましたねぇ」
隣の女性が優しそうに笑う

「最初で最後なの?」
「そうなんだ、今は新しい機械が導入されてね
この検査方法も今はやっていないんだよ。
私はこの検査を専門にやっていたからね、
その機械と入れ替わりに研究所を去る事にしたのだ。
その時に丁度処分されたそうだったこれを見つけてね、
キレイなものだけ拝借してきたんだよ
これがもう最後のNoのものでね
他の研究員にはただの古い不良品かもしれんが
私にとっては大切な思い出になっているんだ
最後の最後で助ける事ができてよかった

退職記念、というべきかな?」

男性は愛おしそうに"夜空星調査棒"を見つめる。
「もうこの形はないの?」
「ああ、今は薄っぺらい科学加工したシートになっているんだ。
味気ないもんさ、私はああいうのは苦手だ」
「僕も。よくわからないけど科学シートより
こっちのほうが断然素敵だと思う」
女性が僕の頭をなでる
「ありがとうね」
その優しい手の感触に
照れて俯いた僕を見て男性は女性に
小さな子供じゃないんだから失礼だぞ、と注意したけど
女性はまぁまぁごめんなさいね、と言って
また僕の頭をなでた。

男性はそんな女性の行動にため息をつきながら、
でも面白そうに
「今は職を失ったが、こうして家内とのんびりと旅ができ、懐かしい友人に会い、
こんな可愛い少年と出会えた。また新しいスタートをきるにはよいきっかけだったと思うよ」
店主もそうですねぇ、まだまだこれからですよ、なんて相づちを打つ。
僕は宿題があるので、と帰る旨を伝えると
これは記念に、と僕にその"夜空星調査棒"をくれた

「今はいろんなものが消えていく
新しいものがよいというのは分かるけれども
こういう古いものにも良さがあるということを忘れないでほしい」
僕はありがとうとお礼をいい、店を出た。

そういえば、昨僕は部屋の掃除をして
いらないものを沢山捨てた。
着ない洋服や使える雑貨はたまにくるリサイクル担当の区役所の人に渡した。
それでも捨てられないものは沢山ある。
それはやっぱり、新しいものより
古いもの、思い出がつまったもの…
もう手に入らないもの…
兄が書いてくれた小さなメモや
お気に入りのボタンの欠片

思い出すのは
他の誰かが見ても価値はわからないと思うものばかり
もし僕がいない時に誰かに捨てられて
しまったらどうしよう?
その人にとっては価値がなくても
他の人にとっては宝物
僕ももしかしたら他人の宝物を
捨てたり、壊したりしてるかもしれない

空には小さな雲が流れ
星の光をキラキラとまとっているようだった。
僕はなんだか不安になり
今日は「宝物入れ」を作ろうと家路を急いだ





Item:16
name:夜空星調査棒
星空を巻取り、研究用に保管する棒