☆.。.:*・ 天文台の思い出 .:*・°☆

扉を開けるとそこには若い青年が
店主と楽しそうに話をしていた。
「いらっしゃい、ココウ君」
その声に青年もこちらを向く。
彼の一房色の違う前髪がさらりと揺れた。

手元にはガラスの壜。
彼等はこれについて話をしていたのかもしれない。
僕の視線に気がつくとその青年は
「君も興味あるかい?」
店主に似て、とても優しい話し方をする人だった。
僕を隣に座らせるとその壜を見せてくれた。
家の父のものなんだけど、そういって渡してくれたものは
砂時計だった。

青く細かい砂が下へ、上へ時を刻む。
「ココウ君この人は天文台で星を見ているんですよ」
僕の街から少し離れた丘に、天文台があるのを聞いた事がある。
僕はまだ行った事がないけれど、
とても古くて、今度閉鎖されるかもしなれないって、
この前社会科のオカヤ先生が言っていたのを思い出した。

「この砂時計
昔人間が宇宙に出てまもないころの切手が入ってるんだよ。
僕の父が大切にしまっていたものらしいんだ。
僕はあの天文台で父のように
新しい星を見つけるのが夢だったけど
もう無理みたいでさ、僕は田舎に帰る事になったんだ」
母の実家の葡萄畑を継ぐのですと青年は静かに笑った

ほら店主古いもの好きでしょ?と僕を見る
「記念に買ってもらおうと思って
それで少しでも
僕の旅行賃が手に入ると嬉しいな、とね」
砂時計と一緒に入っている切手は、まるで時間が止まったように
その砂の音に耳を傾けている
「父はコーヒーを飲みながらこの砂時計を眺めていたんだ」
静かな空間でコーヒーを飲むひととき
それはどんな特別な時間だったのだろう
僕はこの前図鑑でみた星々と思い出す

雑貨店の
古い時計が静かに時間を告げた

その音に青年は弾かれたように席を立つ
いつの間にか長居してしまったね
さ、僕は天文台の様子を見に行かなきゃ、と
横にかけてあったコートをつかみ、店主に礼をして出ていった。

僕がその素早い動きに驚いて
彼の出ていったドアを見つめていると

「今日は天文台が解体される日なんだそうですよ」
店主は彼の残した砂時計を見ながら

「彼は父さんに似ていますね。
彼もあの天文台が大好きだったんですよ」
「彼のお父さんを知ってるの?」
「お茶飲み友だちですよ。もちろん今の彼とも」
店主が懐かしそうに微笑む
「ずるいな〜
僕も一度見に行きたかったのに」

「今度見に行きましょうか」
「どこへ?」
「砂時計が見る夢の中へ」





Item:07
name:天文台の思い出
昔人間が宇宙に出てまもないころの
切手が入っている